高断熱高気密に対するアプリコットの考え方

家の断熱イメージ
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高断熱高気密は性能数値だけでなく原理の理解度が大切

現在建てられる住宅の多くが「高断熱高気密仕様」を売りにしています。その一方で「高気密・高断熱の家」「最高等級の家」などと広告で謳っていながら、正しい原理を理解せぬまま施工している住宅会社はたくさんあります。

適切な断熱や気密施工、換気計画ができていないと、カビの発生がハウスシックを引き起こしたり、壁の中の結露が原因で家の構造に腐朽が生じたりします。高断熱高気密の住まいづくりを考えるとき、単に性能の数字だけで比較するのではなく、設計・施工者が断熱や気密のしくみをどのくらい理解してるかを見極めることが大切です。

アプリコット建築研究所は、パッシブハウス・ジャパンの賛助会員になるなどして、高断熱高気密仕様の施工技術などの情報を常にアップデートしています。次項では、2025年時点で私たちが標準としている断熱仕様についてご紹介します。

断熱等級ごとの仕様例

断熱等級ごとにおすすめの断熱材の種類や厚さの例をご紹介します。ただし、必ずしもこの仕様で常に設計するとは限りません。状況によっては基礎断熱を床下断熱などに変更する場合もあります。また、地域や立地、ご予算などにより条件は変わります。そのため、一棟ごとに断熱性能を計算した上で、断熱の仕様を決めるようにしています。

断熱等級7の場合

6地域(大多数の温暖地)の場合においてHEAT20 G1、Ua値0.26以下を実現する、パッシブハウス認定も視野においた場合の仕様例

屋根断熱材

充填断熱:高性能グラスウール200㎜ + 付加断熱:フェノールフォーム断熱材66〜100㎜

外壁断熱材

充填断熱:高性能グラスウール105㎜(または120㎜) + 付加断熱:フェノールフォーム断熱材66〜100㎜

基礎断熱材

基礎外断熱:立上り ビーズ法ポリスチレンフォームEPS断熱材100㎜/スラブ下 押出法ポリスチレン断熱材50㎜

サッシ

樹脂窓+トリプルガラス、または超高性能木製窓+トリプルガラス

断熱等級6.5の場合(6と7の中間を目安に)

6地域(大多数の温暖地)の場合においてHEAT20 G2.5相当、Ua値0.35前後を目標とする場合の仕様例

屋根断熱材

充填断熱:高性能グラスウール200㎜ + 付加断熱:フェノールフォーム断熱材40㎜

外壁断熱材

充填断熱:高性能グラスウール105㎜(または120㎜) + 付加断熱:フェノールフォーム断熱材30㎜

基礎断熱材

基礎外断熱:立上り ビーズ法ポリスチレンフォームEPS断熱材50㎜/スラブ下 押出法ポリスチレン断熱材50㎜

サッシ

樹脂窓+複層ガラス〜トリプルガラス

それ以外の断熱材

断熱材の性能については、製品の以下の数値で決まります。

熱伝導率 × 厚さ = 熱抵抗値

価格の高い断熱材は薄く、価格の安い断熱材は厚いと一般的にはいえます。建物の規模や敷地の広さ、施工の手間などさまざまな理由で断熱材を選択します。以下に、断熱材の種類とそれぞれの長所・短所について簡単にご紹介をします。

グラスウール・ロックウール系

長所

  • コストパフォーマンスが良く、広く流通している
  • 防火に強い(今は他製品もかなり対策はしている)
  • 防音的にもほかと比べ若干優れている

短所

  • 広く出回っている袋入りグラスウールは施工が楽な半面適当に入れると角が丸っとなり隙間ができやすい
  • 袋無グラスウールは施工の時チクッとする(かなり改善はされている)
  • 袋無グラスウールは施工者の技量の差が出やすい

発泡ウレタン断熱材

長所

  • 専門の吹付の業者による施工のため施工者の技量の差はでにくい
  • 柱などにしっかりくっつき隙間ができにくく、気密は取りやすい

短所

  • 先の長い話だが解体時に柱などと離れにくく産業廃棄物扱いで解体費用が高くなる可能性がある

フェノールフォーム板、フェノバボード板

長所

  • 熱伝導率がかなり低く高い断熱性能
  • ボード状で安定している
  • 薄くても高性能なため、都市部、狭小地などの付加断熱に向いている

短所

  • コストがかかる
  • 紫外線に弱い(段取り良く施工、早めに外装材で覆う)

セルロースファイバー等の古紙を材料とした吹込み断熱材

長所

  • ホウ酸(自然な防蟻剤)も練り込まれている
  • 専門の吹込業者による施工のため施工者の技量の差はでにくい
  • 自然素材である
  • 防音的にも優れている
  • 調湿作用がある

短所

  • コストがかかる
  • 対策を充分にしないと断熱材が沈下する

ウッドファイバー吹込み断熱材

長所

  • 専門の吹込業者による施工のため施工者の技量の差はでにくい
  • 自然素材である
  • 蓄熱性能があり熱が冷めにくい
  • 調湿作用がある
  • 吸音性が高い

短所

  • コストがかかる
  • 対策を充分にしないと断熱材が沈下する

ビーズ法ポリスチレンフォーム(EPS)による外断熱一体外壁材

長所

  • デザイン性に優れたモルタル下地吹付の外壁仕上げと断熱が一体となり、現場で調合する必要がない
  • 外装材と一体のため、経済性が高い
  • 施工が早い(外壁の構成がシンプルなため)

短所

  • まだ日本ではなじみが少なく、通気層が無いことに不安を感じる場合がある(決められた下地材、柱を使うことにより劣化対策は考えられている)

まとめ

高断熱高気密はそれ自体が最終目標ではなく、いかに住まう人間がずっと健康的に過ごせるかということが一番の目標です。そのためには、一定水準以上の断熱・気密性能であることは確かに必要ですが、性能の数値が少しでも上の住宅会社が建てる家のほうがより快適であるという等式は必ずしも成立しません。

また、「断熱材」とひとくちに言ってもさまざまな商品があり、それぞれ長所と短所があります。あらゆる条件下で常にパーフェクトな断熱材は存在しません。そのため、断熱材の長所と短所を十分に理解した建物ごとの使い分けが、快適な環境づくりのポイントとなってきます。

高断熱高気密の住まいづくりをする際には、求めている快適さに応じて適切な断熱と気密の仕様を提案できる、十分な知識を持ち合わせた住宅会社や設計事務所にご相談されることをおすすめします。

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この記事を書いた人

田代 ゆかり〈アプリコット建築研究所代表・一級建築士〉

アプリコット建築研究所は、京都府長岡京市の設計事務所です。
「動きやすく便利な家事動線の住まいが欲しい」「夏も冬も快適で健康に、そして省エネに暮らしたい」「パッシブハウスを建てたい」といったご要望に応えられる住まいづくりの提案に日々取り組んでいます。

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