断熱・気密と同じくらい大切な換気
住宅と断熱・気密性能に比べるとお客さまからあまり重要視されないのが「換気」です。しかし、高気密の住宅には「すき間」が無いため、良くも悪くも自然には空気が入れ替わりません。そのため機械による換気が必要になってきます。また、換気システムの選択や計画が不適切だと室内の空気をうまく入れ替えることができず、空気の汚れや湿気の滞留につながります。
今回のブログでは、住宅で用いられる換気方式についてご紹介するとともに、後半では換気システムと冷暖房(空調)システムの組み合わせについて考察します。
換気方式には大きく4種類がある
第一種熱交換型換気
給気も排気も機械で行う換気方式です。熱交換器で、窓を閉めたままでも本体の中で温度の受け渡しをするので、窓開け換気による、エアコンで空調した暖気や冷気の逃げを食い止めます。ただし、第三種換気と比べ年間の使用電気代が大きくなるのが欠点です。機械制御されているので簡単かつしっかり空調したい、湿気を調節したい(全熱タイプの場合)という場合に向いている換気方式です。

【写真】FOCUS200(第一種熱交換型換気)
第一種熱交換型換気をもう少し詳しく見ると、ダクト方式とダクトレス方式、また、顕熱タイプと全熱タイプとに分けることができます。
ダクト方式
第一種換気の中では一般的、1・2階間のふところ、2階(最上階)の天井裏、(一部1階床下の場合もある)にダクトを這わせ、各居室等へ新鮮空気を送り込み、汚れた空気を排気します。外壁を貫通する穴はそれぞれ給気排気1ヶ所ずつで良いのが特徴です。

【写真】第一種熱交換換気 小屋裏ダクトの様子
ダクトレス方式
第一種換気の中では少数派ですが、ダクトの工事がしづらいときに向いています。リフォームや、新築でも高さの取りづらい計画の時や、ダクトに溜まるホコリ等が心配だと考える方におすすめです。
各居室の外壁に本体を直付け設置、数10秒ごとにどちらかの方角の部屋の機械が給気を担当し、反対側の部屋の機械が排気を担当。次の数10秒でその逆となることで換気を行います。

【写真】ダクトレス第一種熱交換型換気(VENTOsanのHPより転載)
顕熱タイプ、全熱タイプ
熱交換素子には、顕熱(温度のみの受け渡し)タイプと全熱(温度・湿度とも受け渡し)とがあります。夏に湿気が多く蒸し暑い西日本では全熱タイプがお勧めです。
第三種換気
排気は機械にて行い、給気は各居室等の給気口から自然の力で給気する換気方式です。熱交換型ではないので、せっかくエアコン等で空調した暖気や冷気を逃がしてしまうのが欠点です。ただし、うまく計画換気することにより熱損失はある程度は抑えることもできます。第一種換気と比較すると、電気代のランニングコストは低くなるのがメリットです。
第三種換気もダクト方式とダクトレス方式とに分けることができます。
ダクト式
「第一種換気のダクト方式」と同じようにダクトを這わせます。ダクトレス方法と比べ、家の中の空気の溜まりやよどみが解消されやすいのでカビも生えにくいのが長所です。
ダクトレス方式
今までの日本の住宅では大半がこの方式といえます。建築基準法で2003年に「シックハウス対策」が義務化されてからは、トイレ・洗面所に壁付パイプファン(一部天井付パイプファン)を設置している住宅が大多数です。初期費用は一番安い換気方式です。
第二種換気
給気は機械にて行い、排気は自然の力で行う換気方式です。病院の手術室や工場などのクリーンルームに採用されることがある方式です。一般住宅での採用はほとんどありません。
第四種換気
給気も排気も機械の力に頼らず、自然な建物内の高低差による温度差や風の力を用いた換気方法です。「パッシブ換気」と呼ばれることもあります。
初期費用やランニングコストがかからなく夢のような換気システムですが、残念ながら第四種換気のみの住宅を建築することはできません。建築基準法で2003年に「シックハウス対策」が義務化されたことにより、24時間換気を設置、1時間当たり居住空間の空気が2回以上入れ替わらないといけないという法律ができたためです。そのため、第三種換気を導入して補完する必要があります。(そもそも、日本の温暖地では気象条件的に完璧にパッシブ換気に頼ることも難しいので、いずれにしても第三種換気との併用は必須となります)
また、第四種換気を採り入れるには、換気量を計算して建物自体を換気筒として設計するなど、相応の知識と設計スキルが必要です。
冷暖房(空調)と換気との組み合わせ
換気と並行して考えたいのが冷暖房(空調)システムです。健康的なお家として家中がくまなく換気され、部分冷暖房ではなく家中がちょうど暖かい/涼しい家をお勧めします。
アプリコットがおすすめする換気と冷暖房システムの組み合わせには、以下のようなものがあります。
第一種熱交換換気(ダクト式)と集中エアコンとの組み合わせ
第一種熱交換換気(ダクト式)
FOCUS200(PAUL社)、SE200R(ローヤル電機)などの換気システムと、セントラルエアコンである「アメニティエアコン(ダイキン製)」などとの組み合わせです。
一般的には、エアコンで冷房を停止した後、結露水がエアコン内に残りカビが発生することがありますが、第一種熱交換換気はダクトにて換気をしていると結露の心配は少なくなります。(「絶対に結露しない」というわけではないので、建物自体気密もしっかり、断熱もしっかりと施工を行い、ダクティングも部分的に負荷がかからないよう、適切な計画と隙間が生じない施工も必です)
第一種熱交換型換気(ダクト式)とエアコンが一体となったもの
「ゼンダーコンフォーム(ゼンダー製)」という機器があります。第一種熱交換型換気(ダクト式)とエアコンの機能が一台になっている製品です。集中パネルで温湿度のコントロールができるので、楽に空調換気が行えます。

【写真】ゼンダー・コンフォーム 第一種熱交換型換気・冷暖房一体型
第一種熱交換換気(ダクト式)と壁掛けエアコンとの組み合わせ
換気とエアコンは完全に別となります。そのため、エアコンが故障したときは、エアコンだけを交換すれば良いためコストパフォーマンスが良いのが特徴です。エアコンの掃除も簡単です。家族間で体感温度が違う場合は、部屋ごとの温度管理が容易です。
第一種熱交換換気(ダクト式)と床下エアコン・小屋裏エアコン(またはどちらかのエアコンと壁掛けエアコン)との組み合わせ
壁掛けエアコンと同じく換気とエアコンは完全に別となります。冬の暖房は床下エアコンが担当します。暖かい空気は上に上がっていくため、エアコン室内機を床下や床に半埋込みで設置、床下も居住空間に近い温度にして部屋全体を温めます。そのため、基礎断熱は必須となります。上手に設置すれば、1階全体の床下が1台のエアコンで暖かくなります。
夏の冷房は小屋裏エアコンが担当します。冷たい空気は下に沈んでいく性質があります。コンビニやスーパーのアイスクリーム・冷凍食品売り場のショーケースに蓋が無いのは、この性質によるものです。
階段や吹抜け空間や床・天井ガラリを上手く利用して家全体に冷気が行き渡るようにすれば、1台のエアコンで各部屋が涼しくなります。ただし、狭い小屋裏空間にエアコンを無理に設置したり、換気ダクトが密集しすぎる、あるいは断熱計画が上手くいっていなく暑い部屋などがあるなどの場合は結露の問題が発生しますので、注意が必要です。
第三種換気(ダクト式)と壁掛けエアコン(床下エアコン・小屋裏エアコン)との組み合わせ
特徴的には、第一種換気の場合と同様です。ただし、第三種換気ということで第一種換気と比べ初期コスト、年間の電気代(ランニングコスト)も安いのが長所です。一方、給気・排気によって空調された温度がそのまま逃げてしまうのが短所となりますが、換気・空調計画の検討により幾分かは抑えることができます。北海道・東北地方ほど寒さが厳しくない関東以西のエリアであれば第三種換気もあり得ると考えます。
第三種換気(ダクトレス)と壁掛けエアコンとの組合せ
換気の項でも述べましたが、日本の住宅建築の、2003年法改正(シックハウス対策)以降は最もスタンダードな換気方式です。初期費用・ランニングコストとも最安です。ただし、住まい手が自主的に窓開け換気などを行わないと冬暖房時や夏冷房時でカビのリスクが一番大きい
第四種換気(パッシブ換気)と壁掛けエアコン(床下エアコン・小屋裏エアコン)との組み合わせ
換気方式や後述の「パッシブ換気」でも詳細に述べているが、法律対策と補完対策の第三種換気と一部併用しながらで、もっともコストパフォーマンスが良い方式だと言えます。
それ以外の冷暖房(空調)と換気との組み合わせ
エアコンは大変エネルギー効率が良く日本が誇る空調機器と言えます。吹き出す冷気についても、高断熱高気密の住宅だとエアコンも強風運転などまずしないので風は気になりません。エアコン以外にも以下のような冷暖房方式があります。これらもそれぞれ第一種換気・第三種換気・第四種換気との組み合わせが可能です。
暖炉、薪ストーブ、ペレットストーブなどバイオマス利用
高断熱高気密住宅においては、暖房が効きすぎてオーバーヒートを大変起こしやすく不必要に思われがちですが、燃料となる木材の再利用は総じて大気中のCO2総量の増減に影響を与えないのでカーボンニュートラルに貢献します。さらに、炎のゆらぎを眺めながら家族でなごむ、あるいは冬はやかんをおいて室内の加湿をするなどエアコンには無い良さも充分にあります。
放射パネル型冷暖房、または暖房
パネル式放射暖房暖房は北海道やヨーロッパなどの極寒の地域の窓辺に設置例が多く、お風呂上りのタオルウォーマー等もこれにあたります。暖房だけでなく冷暖房パネルとして、室内の空間の中に意匠も考慮して設置される連続したパネルもあります。
一番のメリットは、何といっても無音・無風の心地よさがある点です。広い空間に適しているますが、初期投資としてはコストが高いのがネックといえます。
床下パイピング暖房
北海道では床下放熱式暖房とパッシブ換気の組合せで心地良さの実績もあります。かなり少数派ですが、基礎断熱をした床下(基礎スラブ上)にチューブを引き、給湯器等のお湯で温めます。昔からある床暖房とは似ていますが、床暖房は故障時にはフローリングを剥がさなくてはいけないのに対して、床下パイピング暖房はチューブが露出しているので、交換・メンテナンスが容易です。
大変心地よい自然な暖かさが魅力です。短所としては床暖房と同じく温水を循環させるため、暖房のつけ始めと付け終わりに時間がかかる点です。
お勧めではない暖房方式
最後にお勧めではない暖房方式について述べておきます。
開放型ガスストーブ、開放型ガスファンヒーター、石油ストーブ
室内の空気を燃焼に用い、燃焼した排ガスをそのまま室内に排出します。1時間に2回窓開け換気を!とのシールは貼ってますが、うっかりしていると一酸化炭素中毒で命の危険や健康を害します。窓開け換気ではせっかく温めた空気が逃げてしまいエネルギーの無駄になります。
気密の悪い家だと気密の良い家よりも自然に換気出来て安心という意見もありますが、気密の悪い家=計画的に換気できていないということ、危険には変わりありません。
FF式ガス暖房機などきちんと外気に配管され給排気を行う場合は安心です
電気ストーブ、こたつ、ホットカーペットなど
局所暖房になるので寒い部屋や、廻りの寒い空間との温度差のヒートショックが心配です。また、肌に近いと低温やけども心配で小さなお子様、ご老人のいらっしゃる家庭では特に注意が必要です。高断熱・高気密住宅ではやはり、エアコン運転がコストパフォーマンスが大変良く、おすすめと言えます。

